Line 6 HX Stomp を買おうか迷っているとき、引っかかるのはたいてい2つではないでしょうか。「フットスイッチが3つしかない」ことと、「1プリセットに置けるブロック数に上限がある」ことです。どちらも、店頭で少し触ったくらいでは足りるのか足りないのか判断がつきませんよね。
わたしはこの機種をボードの核として、ライブハウスとスタジオで使っています。結論から言うと、上限そのものは減らせませんが、歪みをセンドリターンで外に出して、外部MIDIコントローラーを1台足す。この2つで、上限に困る場面はほとんどなくなりました。この記事では、その運用を具体的に書いていきます。
まず、どこで上限にぶつかるのかをはっきりさせておきましょう。メーカーの製品情報によると、HX Stomp は1プリセットあたり最大8ブロックまで置けます。バンドで使う標準的な構成を組むと、だいたいこんな配分になります。
1 コンプレッサー
2 ドライブ
3 アンプ
4 キャビネット
5 モジュレーション
6 ディレイ
7 リバーブ
アンプとキャビネットを別のブロックで置くと、これだけで7つ埋まります。残りは1つです。ここに「ソロ用にディレイをもう1系統ほしい」「曲によってはフェイザーも使いたい」が加わると、その時点で入らなくなります。アンプとキャビネットが一体になったブロックを選べば1つ節約できますが、いずれにしても余裕は1〜2ブロックしかありません。
つまり足りなくなるのは、音を増やしたいときというより、同じ種類のエフェクトを曲ごとに使い分けたいときなんですね。ここが、これから書く運用の出発点になります。
上限に対していちばん効くのは、歪みを本体の外に出してしまうことです。HX Stomp のセンド/リターンにアナログの歪みペダルをつないで、ループとして信号経路に組み込みます。マニュアルの記載では、このループ自体は1ブロックとして数えられます。歪みを内部ブロックで2つ持つと2ブロック使うところが、外に出せば2台まとめて1ブロックで済む計算です。
わたしは常時オンのクランチとして VEMURAM Janray を置いて、もう1台は曲に合わせて差し替えています。ブースター寄りのものを持っていく日もあれば、癖の強いファズにする日もあります。
ただ、この運用の本当のありがたみは、ブロックが1つ浮くことよりも歪みのつまみに手が届くことのほうにあると感じています。リハーサル中に「もう少しゲインを落としたいな」と思ったとき、画面を辿らずにノブを回すだけで済みますから。音作りの詰めをアナログ側に任せて、HX Stomp にはアンプと空間系を担当してもらう、という分担ですね。
そのかわり、ペダルを外に出す以上、ボードの面積と電源はこれまでどおり必要になります。「HX Stomp 1台で荷物が完結する」構成ではない点は、先にお伝えしておきます。
本体のフットスイッチは3つです(実機を見て数えました)。プリセット切り替えとスナップショットを割り当てると、曲中に自由に使える枠はほとんど残りません。
困るのはソロの前後です。ディレイをオンにして、リバーブを深くして、ブーストを踏んで……と、切り替えたい項目が同時にいくつも出てきます。これを踏み分けようとすると、ソロに入る直前の1〜2小節が足元の作業で潰れてしまうんですよね。音質うんぬん以前に、演奏に集中できないという意味で実用上の問題でした。
そこで M-VAVE Chocolate Plus を1台足しました。低価格帯の小型MIDIコントローラーで、フットスイッチ1つに複数のMIDIメッセージを割り当てられます。ソロ用の変更をまとめて1つのスイッチに寄せたことで、踏む回数が1回になりました。
MIDI経由ならブロックのオン/オフとパラメータの値を同時に動かせる、というのがこの構成の肝です。本体のフットスイッチだけだと「1スイッチ=1機能」に縛られますが、外から投げれば1回の踏み込みに複数の変更をまとめられます。
ライブハウスやスタジオで音を出すとき、わたしは JC-120 のリターンに挿しています。アンプ側のプリアンプ段を通さずに、HX Stomp のアンプモデリングをそのままパワーアンプへ送る形ですね。
音量合わせは HX Stomp 側のアンプブロックにある Master で行って、最後に実際の音を聴きながら微調整します。この手順にしてから、自宅で作り込んだプリセットが現場でもほぼそのまま鳴ってくれていると感じています。音量だけを外側で動かして、音色を決めている部分には触らないからだろうと考えていますが、これはわたしの解釈であって、測定して確かめたわけではありません。
JC-120 以外のアンプのリターンに挿した場合にどうなるかは、今回は確認していません。パワーアンプ部の特性が変われば結果も変わるはずなので、この手順がそのまま通用するとは限らない点はご承知おきください。
複数のアーティストをコピーするバンドだと、曲ごとに欲しいアンプの傾向が変わりますよね。この場合はアーティスト単位でプリセットを分けて、PC上の HX Edit で作り込んで管理しています。エディタ上でブロックを並べ替えられるので、本体だけで操作するより見通しがいいです。
いっぽう、単一アーティストのコピーやオリジナルのライブなら、1つのプリセットの中でスナップショットを切り替えるだけで複数曲をまたげています。プリセットを切り替えないぶん、曲間で音が途切れる心配をしなくていいのが助かるところだと感じました。
向いているのは、曲ごとにアンプの傾向を変えたい方、アナログの歪みを手放したくない方、そして足元の操作を減らして演奏に集中したい方です。わたしにとっては、ギグバッグひとつでスタジオやセッションに出られるようになったことの効き目が大きかったです。都内の移動で、これは実際に楽だなと感じています。
逆に、すべてを本体の中で完結させたい方には向きません。歪みを外に出す時点でボードと電源が必要になりますし、外部MIDIコントローラーの割り当てを詰める手間もかかります。この初期設定を面倒だと感じるようなら、フットスイッチ数の多い上位機種を最初から選ぶほうが素直だと思います。どちらが優れているという話ではなくて、初期設定の手間を払うかどうかの選択ですね。